シャツ生地に関して

“京友禅の型彫師による繊細な線の表現。京染の微妙な濃淡や重ね技術”
“織りでなく染めでの有機的感覚の表現”

「シャツって日常的に仕事のときもオフのときも着るものですよね。その人の主張っていうものが色や柄の中に見えて、そこに個性や品を感じることができるものでもあると思うんです。ただ、デザイン的にいうと織物である特性からどうしてもシャープな感じになりがちで(シャツの形自体戦争時に変られてますから余計に)、色で柔らか味を感じさせたりする程度だったと思うんですよね。あるとき、忙しくてバタバタ、イライラしたりしたとき、普段の仕事中に身に付けて息抜きできるような緩やかさを視覚的にも感じられるものって意外とないなぁと思ったんです。そんなとき、最初に思ったのが車のインテリアにあった木の有機的な木目だったんです。インダストリアルな作りの中で使われている木目のほっとするような暖かさ。それからよろけ縞の浴衣に出会って、その緩やかでクラフト的な線でシャツ地を染めるとどこか和む感じを持たせることができたんです。生地に更に染めるのだから手間がかかったものになってしまったけど、日常でなにか和む感じが身近にあるっていいなぁと。そんなことを思いながら江戸小紋などの一見無地に見えるような柄作りや縞の歴史などに触れていくと和柄ってとても繊細に感じて、なんか馴染む感じがして。きっとどこか懐かしい記憶もあったんですよね。もちろん長年イタリアの繊維関係に関わった経験からも、いかにスーツやジャケット、それにカジュアルに合わせたときでもきれいにコーディネートできるかどうか気にしました。

特にスーツ姿なんかは軍服からの流れがあるから、どこかシャープな感じがつきまとう。それに一見ストライプに見えるけど、どこかよろけている感覚の縞柄シャツの合わせ。そんな「はずし」の遊び心です」

柄 Design:日本の伝統柄をアレンジ

よろけ縞 大名縞、やたら格子、市松など
スーツやジャケットもしくはカジュアルなシーンでも違和感なく着れること事を前提にした柄デザイン。単に和柄をモチーフ的には考えていません。

「日本の模様って一見緩やかな感じがあるんだけど、柔として凛とした感覚がある。よろけ縞にもそんな感じがして。それと音的にもいいかなって。「よろけ(tottering)」って。気遣って仕事しているときでも、身近にゆるさがあるとふっと和む気がするかなと。ランダムに描かれた線のように見えるけど全体的にまとまって見える感覚もいいかな。やたら格子なんかもそうですね。インナーとしてのシャツはできるだけ遊びたいですね。着物の裏地に凝るように。」

色 Color:日本の伝統色

わすれなぐさ色、桜色、銀鼠、藍色、栗皮色 など
色はシャツの形など全体的スタイルと他とのコーディネートを考慮して配色。

「日本の伝統色の中でもスーツやカジュアルでも合わせやすい色を選んでいます。ただ、粋な色とされた茶系、青系、鼠系は意識して入れました。日本の伝統色ってネーミングがなんともいい。例えばわすれなぐさ色はサックスブルーのようなきれいな色。そのイメージが浮かんでくる。ビリジアンとか言われても名前だけが先行して、ただ色に付けた名前って気がする(本当の意味はあるのでしょうが)。利休白茶に銀煤竹なんかは茶室にある茶筅のイメージなんかも髣髴されて・・・なんて少々遊びですけど」